ある日、本島に戻り夕方ホテルをウロウロしていたらトラックの州知事がやってきて、食事でもどうかと誘われたことがあった。知事と彼の奥さんと共にテーブルに座ったところで、私はこの疑問を投げかけてみた。トラック人の気質あるいは民族性というのを、もし言葉で表現するとしたら一体何でしょうね?と尋ねてみたのだ。すると二人同時に「フレンドリー」という言葉が返ってきた。
これを聞いたときに実に的を射た答えであると、感心してしまった。確かにいろいろ表現があると思われるが、この言葉がまさにぴったりといえる。とにかくここの人たちは人懐っこい。子供も大人も老人もすべて明るくて話し好きである。男にしろ女にしろすべてこの一言で済ませられてしまう。
しかし、いくらのんびりしたフレンドリーな人柄だといっても、やはり人間だから喜怒哀楽があるわけで...。時にはホテルの中で現地人同士が言い争っているのを目にすることがある。だんだんと感情的になってきて、いつやりあうのか?と横でじっと眺めているんだけれども、どうゆうわけか、お互い言い争っている最中なのに昼の12時になると「飯だ!」といって喧嘩が途中で終わってしまう。ほとんどの人がそうである。これがもし日本人だったら、お互い争い始めたら、飯など食わずに決着がつくまでとことんやってしまうのだが、ここトラックの人たちにはそのような人はいなさそうである。ときたま私か具に仕事の話をしている最中でも、平気で飯を食いに行ったり、昼寝をしに行ったり、また家に帰っていったり彼女に会いに行ったりする。何も言わずに後ろを向いて平気で行ってしまう。私は一瞬あっけにとられてしまうのだが、何十回とこうゆう目に合っているので、最近では私も話している最中で都合が悪くなると、そそくさと部屋の中に逃げ込むことにしている。
既に私はこの土地に何年も住んで、のんだくれ、泥棒、嘘つき、貸した金を返さない奴などに、様々な迷惑をこうむっているわけだが、ふと振り返ってみると「あの野郎!」と憎たらしく思える奴が1人もいない。つまり人に恨みを抱かせないということになる。トラック環礁という、丸い環礁では世界最大級の海から糧を得ている人たちで、産業などひとつもない土地だから、ある意味自然と人間がうまく調和しているのかもしれない。生まれながらにして大自然の中で生活しているから、何か事が起こってもあせならいし動じないのではないか。要するに春が来ればその後夏が来る、風が吹けばスコールが来て、やがて太陽が照りつける。といった具合に「何事も自然にしておけばいいんだ」という感覚が身についているのかもしれない。いわば自然から与えられた知恵であり、学問ということになる。