写真館に木村氏・堀川氏が登場です!

無人島に辿り着いて

 1980年に私の赤道一周の旅が始まった。
七つの海を求めて、また同時に青を求めての旅であった。今、思い起こすと随分といろいろなところを回った。また随分と金も使った。そして多くの人々とたくさんの海に出会った。
ロタ・パラオ・ヤップ・ポナペ・コスラエ・マジュロ・ギリシャ(ミコノス)・エジプト(レッドシー)・モルディブ・セイシェル・バリ・インドネシア・マレーシア・タイ・フィリピン・シンガポール・オーストラリア・(ヘロン島・ケアンズ・ポートダグラス)・グアム・サイパン・ハワイ・メキシコ(カンクン・コスメル)・マイアミ・グランドケイマン・ジャマイカ・ホンジュラス・ガラパゴス・・・。そして一九九七年にミクロネシアのトラック諸島に辿り着いた。結局、ミクロネシアのロタ島から始まって十七年後に錨を降ろした場所がトラックだったのである。ミクロネシアで始まりミクロネシアで完結したわけだ。

この土地はまさに楽園と呼ぶにふさわしい土地だと思う。ほとんどの人々が仕事を持たず、自給自足で思い思いにのんびりと暮らしている。陸上には毒性の生物はいず、各島々のジャングルには食べられる実をつける木々や植物がうっそうと茂っている。主食となるパンの実・タロイモ・タピオカ。フルーツでは、バナナ・パパイヤ・パイナップル・マンゴー・グアバ・スイカなどがある。そしてたくさんの椰子の木の下には、ハイビスカス・プルメリア・ブーゲンビリヤなどの美しい花々が所狭しと咲き乱れている。
ここは小さな島々が環礁内に九十二島、環礁外に、九十七島点在し、さしずめ水の楽園といった感じである。多くの島々は、マングローブの木々で覆われ、そこではカニが採れるし、リーフの先に小舟で出ると魚もたくさん採れる。贅沢なものさえ望まなければ、誰だって生活していくことができる。そんな環境のせいか、島の人々はどこかおっとりしている。その辺りの道端やジャングルなどで出会ったりすると、必ずといっていいほど、椰子の実をくれたり、採れたてのパパイヤやバナナやサトウキビをくれたりする。そんな人達と一緒にもらったりサトウキビをチューチューかじりながら座っていると、時間を忘れてついつい話込んでしまう。みんな屈託のない顔で転げている、時計などを持っている者もほとんどいない。

何時間か話し込んで別れを告げ、私は島に帰っていく。お互い名前も知らず、住所も知らないままだ。縁があったらまたいつか会いましょう!という感じなのである。何しろ本島以外は電気もなければ電話もないのだから・・・私の住んでいる島は椰子の木十一本で、あとはキャビンが一つに椰子葺きの小屋が一つあるだけで、周りは全てビーチと海。歩いて三分くらいで回れてしまう小さな島なのだが、ここの居心地といったら申し分ない。既に四年近く住んでいるが、全く飽きが来ない。形のいい椰子の木が適度に散在し、地面は砂で常に裸足で生活することができる。また、三百六十度海を見渡せるロケーションなので、日の出、月の日、満点の星空、夜光虫、ヤドカリ、海亀の産卵や孵化などが見られてしまう。夜寝るのはキャビンでも椰子葺きの小屋でも、外の長椅子でもハンモックでも、軒下でも砂浜でもどこでもOK。時には犬と一緒に寝ることもある。何しろこの島には蚊もいなければ蝿もほとんどいない。ここでは、西風が吹けばスコールがきて、そのあと太陽が照りつける。この繰り返しによる自然の浄化作用が常に働いているので、きれいな島が維持されている。島の周りには約二十メートルの幅で色とりどりの珊瑚畑が広がり、たくさんのカラフルな魚たちが生息しているのが、島からでも容易に伺うことができる。

このような自然の中に身を置いていると、どういうわけか人間らしくやっているなぁーという気持ちになり、日々安堵感に浸ることができる。本質的な喜びがじわじわと汗のように体の中から這い出してくるのがわかる。環境のせいなのか、思考が常に前向きで話題がいつも明るい。そして常に何かを開拓していこうとする気持ち、つまり冒険的精神がふつふつと芽生えてくる。出会いのひとつひとつが発見であり、同時にまた驚きでもある。常に感動があり、全く飽きが来ない。人間はやはり開拓する精神を忘れてはいけないのだと思う。開拓していく一時の苦労を経ることで、達成された時に多くの喜びを味わうことができるのだと思う。日々平穏だけの毎日を送っている人は、決して幸せとはいえないような気がする。人には必ず生まれ故郷がある。都会で生まれた人は、都会が生まれ故郷、地方で生まれた人は地方が生まれ故郷、しかし、あくまでそれは生まれ育った故郷であって、多くの人にとって、自分の生まれ故郷が心のふるさととは限らないわけで…。
しかし、人生において、常に人は心のふるさとを求めてやまないのである。定着する場所、心の落ち着く安息の地を求めているのである。そこに錨を降ろすことができたら、それだけで人間は幸せなんじゃないかとつくづく思う。そういう土地にいると、いつしか心が穏やかになる。

2000年・ジープアイランドにて  吉田 宏司

タイトルとURLをコピーしました