写真館に木村氏・堀川氏が登場です!

南方への憧れ(青年編)

 私は大学に通うため18歳で上京した。卒業後は町田・荻窪・三鷹台などを転々としたが、最終的には吉祥寺に落ち着き、井の頭公園近くのマンションに住んでいた。井の頭公園の中には、「水生物園」と「熱帯鳥温室」があったからである。
 水生物園には、ハクチョウやペンギンなどの水鳥達がたくさんいて、その一番奥には小さな水生物館があった。歩いてわずか5分くらいで回れてしまう、おそらく日本では一番小さな水族館だと思われる。そこが、私にとって一番のお気に入りだった。
 まず入り口に入るとゲンゴロウやメダカ、タニシなどから始まり、ハヤ、フナ、ドジョウ、コイ、ザリガニ、カメ、タナゴそして一番大きなものがサンショウウオ。これらはすべて小学4年生の夏休みに自然界で見たものばかりであったからである。大いに幼き頃を懐かしむ事ができる場所であった。熱い思いを馳せて赤土にまみれながら飛び回ったあの当時が蘇ってくる瞬間でもあった。
 動物園の方には象、ラクダ、猿、ラマなどこれもまたさほど種類の多くない小さな動物園なのだがそのほぼ中央に「熱帯鳥温室」があった。ドアを閉め切った2階建ての建物で南国をイメージしてジャングルになっているものだった。
 椰子の木などが生い茂り、赤、青、黄色と南の色鮮やかな鳥たちが放し飼いになっていた。そして、2階のバルコニーには当時小さな喫茶店があり、そこで椅子に座ってアイスコーヒーを飲みながらハイライトを吸って、ジャングルを見下ろしているのが実に楽しかった。
 たまにスプリンクラーで人口のスコールを降らせたりもしていた。そのスコールの後の緑の大きな葉から落ちる雨露を見ながらゆっくり目を閉じて耳を澄ますと、小学生の頃TVで観たターザンの声が遠くから聞こえてくるような感覚を覚えた。
 その当時はまだ大学生で海外に出かけた事もなく、アフリカもミクロネシアもメラネシアもボリネシアも全く区別がつかなくすべてが一緒くたになった状態、つまり一言で「南方」というイメージだけが心に焼き付いていた。
 うっそうとしたジャングルを見ながら、鳥たちの甲高い鳴き声を聞いていると、いつしか私の心の中に眠っていた原始の感性が呼び起され、必ずや一度は行ってみたい!という衝動に駆られずにはいられなかった。
 そして数年後、私が世界を回り終えて東京に戻り「ジープ島構想」を練り上げたのが、この井の頭自然文化園の中にある「熱帯鳥温室」と「水生物館」の入り口左にある噴水の前のベンチであった。39歳の時である。ベンチはまだあるが、2011年の震災で「熱帯鳥温室」の大きなガラスが割れ、危険だという事で遂に閉園になってしまった。当時たったの200円くらいで大きな夢を与えてくれる場所だっただけに、たいへん残念でならない。
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