写真館に木村氏・堀川氏が登場です!

キミシマ環礁の驚異

 晴天のべた凪の日には、ジープ島からボートで1時間の距離にある外洋のキミシマ環礁に行く事が多い。トラック環礁の南の小さなパス(水路)を抜けて、一旦外洋に出て真正面に見えて来る大きな島フェネッピ島から始まるのがキミシマ環礁である。
キミシマ環礁(KUOPATOLL・クオープアトゥール)は小さ目な縦長の環礁で赤道に向けて長く伸びている。大きな島は手前の最北端と最南端の2つだけで、あとは環礁中央の左の環礁上に小さなフォノヌーク島があるだけである。
このキミシマ環礁は、手前半分のフォノヌーク島までがウマン島の人の持ち物で、あとの先の半分がデュブロン島の人の所有となっている。
キミシマ環礁の魅力と言えば、やはり透明度の良さとキミシマブルーと言われているトラック環礁にない独特の青の世界を見られる事だと思う。また誰も人が住んでいないので、きわめて原始に近い海を垣間見る事ができる。
透明度は良い時だと50m−60m。環礁手前の水路のアンティアスロックを潜ると45mの海底を水面から伺う事ができ、ときにはその海底を通り過ぎて行く馬鹿でかい黄金の大ハタやブラックマンタなどを見る事が出来る。
そのような透明度の中をダイビングで潜れば、浅瀬にいるたいへん艶やかなハナダイの数万の群れが右に左に揺れているのを見る事ができる。誰もが見て感動する実に美しい光景である。
また、アンティアスロックの目の前には、一番大きな島のフェネッピ島があり、そこに上陸をして昼食をしたり、大きなジャングルの中に分け入るのもたいへん興味深い事で、中に進んで行くと様々な鳥たちのさえずりを聞くことができ、そのまま更に突き進めば反対側のビーチに抜ける事もできる。うっそうとした緑の中から、真っ青な海が見え始めるとあまりの美しさに大きな歓声が上がったりする。
そして、ボートで更に南下すれば、小さなフォノヌーク島があり、ボートで島に近づくと実に見事な濃い青と薄い青とのコントラストが島の手前に広がり、真っ白な砂浜から上陸すると容易に島を一周する事ができる。南国のまさに人が入り込ん でいない代表的な無人島と言える。
更にフォノヌーク島を約5分ほど南下すると、真っ白なビーチがいくつも重なって見え、その手前の砂地には多くのサンゴで出来た根があり、その中にナンヨウハギやミナミハコフグやミノカサゴの幼魚たちが生息しているのが見える。水深1mの地点でマスクとフィンを付ければ水温30度の中で真っ白な砂地が広がり、一つ一つの根を見ながらのんびりシュノーケリングを楽しむ事ができる。
何もせずにボートで横になりながら、何処までも続く白と青との美しいコントラストの光景を見ているだけでも感動せずにはいられない。我々は、この場所を「サンドヘブン」と名付けた。これを全く同じような光景が反対側のブルーチャネル寄りでも味わう事ができる。
こういう光景を目にしていると、いつしか心が穏やかになり、本当の自分らしさを取り戻すはずである。しかし、キミシマ環礁の中はたいへん穏やかな海洋自然と言えるが一旦外洋に出れば、穏やかさとは程遠い生存競争があるという事も思い知らされる。
私自身が今まで見た大物の生物は、ほとんどすべてトラック環礁を出たキミシマ環礁寄りの外洋である。オキゴンドウクジラの100頭以上の群れ、ハンマーヘッドシャーク、ブルーマーリン、ブラックマンタ、4m以上もある黄金のハタ、大きなロウニンアジ・・・。
トラック環礁からキミシマ環礁まではボートで約15分程である。つまり外洋と言っても2つの環礁に挟まれた状態だと言える。おそらく最大水深は150mから200mくらいはあると思われる。2つの環礁に挟まれた外洋で言えば、たいへん細い水路的な地形になっている為、潮の流れが出やすい。そこに回遊魚たちが集まり易いのではないか。またそこに捕食する生物たちも集まるのではないかと想像させられるのである。
それは、空を飛ぶ鳥たちの動きを見ても感じ取れる。通常カツオを釣る場合は、小さなボートで漁師がラインにルアーを付けた状態で流すスタイルである。その流す場所は「鳥山」と決まっている。この光景はジープ島から本島に戻る時にもたまに目にすることがある。
その漁のスタイルは漁師だけには留まらないのである。外洋にいる大物の生物達も同じように「鳥山」が狙う小魚達を狙って行動するのである。
私が、今まで見た「鳥山」の数の多さでは圧倒的にトラック環礁を出てキミシマに向かう外洋である。その数は半端ではない!数万羽か数十万羽という数の黒いアジサシの群れである。ときたま環礁から外洋に出た瞬間大きな真黒な鳥の塊を見る事ができる。
この海域での大物生物の多さを鳥たちが証明していると言えるのではないか。ふとそんな気にさせられる光景である。
一度、こんなことがあった。5人の若い女性たちを乗せて、我々はキミシマ環礁を目指した。その日も快晴のべた凪でボートは滑るようにトラック環礁を疾走した。南の水路から出てキミシマ環礁が見えた所で大きな歓声があがり、外洋に出て一気にキミシマ環礁を目指した。フェネッピ島の脇を通り、島のジャングルを横目で見ながら、アンティアスロックの水路に差し掛かった時、一つの尾びれが大きく海面で輪を描いたのを見た。ボートの舳先にいた女性たちは、一斉に「あ!イルカだ!!」と叫んだ。しかし私にはイルカの尾びれには見えなかったので、そのままフォノヌーク島を目指そうとしたのだが、女性たちみんながどうしても見てみたい!というのでしょうがなく「イルカじゃないと思うよ」と言いつつボートを旋回させた。その瞬間、10mほど先で大きな尾びれがゆっくり動いたかと思ったらいきなり猛スピードで獲物目がけて突進した。そこに3m近いイルカが顔を出したと思ったら、いきなり尾びれから下の半分を食べられてしまい、その後浮いているイルカの半分をまたすぐに呑み込んだのである。馬鹿でかいタイガーシャークであった。
おそらく、外洋の壁沿いを泳いでいた一頭の年老いたイルカがサメに見つかり、何とかアンティアスロックの水路から環礁内に逃げ込もうとした所を力尽きて追いつかれ捕食されたものだと思われる。
その後、5人の女性たちは、只呆然とした顔つきでフォノヌーク島まで一言も喋らなかった。私が弁当を持ってビーチに上陸して「さぁー!御飯ですよ!」と言っても誰一人食べなかった。少し時間をおいたらショックが収まったようなのでゆっくりとアンティアスロックに向かったのだが、私は嫌な予感がして5人の女性たちを浅瀬のサンゴの綺麗な場所でシュノーケリングさせて一人でボートの備え付けの長い棒を持って深場に向かった。
その時、私は未だタイガーシャークは近くにいると感じた。何故ならいつもアンティアスロックの棚の所にいるブラックチップとグレーリーフシャークの動きからが明らかに違っているのを目にしたからだ。「間違いなくまたやって来る!」と思った瞬間、遠くから6mくらいあるタイガーシャークがこちらを目がけてやって来るのが見えた。私は現地人に「ビッグポコだ!」(ポコとは現地語でサメ)と叫んで5人の女性ををボートに上げた。タイガーシャークはどんどん寄ってきたが、約8m付近で外洋の方にゆっくりと引き返して行った。キミシマ環礁は、喜びと感動と驚きが同一化している海域であり、自然界の大いなる営みを垣間見ることのできる場所と言える。
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