写真館に木村氏・堀川氏が登場です!

トラック環礁・イルカ伝説

 この話は私の親友であり、またトラックのレジェンドダイバーであったキミオ・アイセック氏の息子でもあるグラッドフィン・アイセック(アッピン)氏から、ある満月の夜に聞かされた不思議なイルカ達の話です。彼の叔母のマギーが十九歳の時に体験した実話だそうです。当時グラッドフィンは九歳。今から三十六年ほど前に遡ります。

1970年のある朝、デュブロン島(夏島)から三人の男と一人の女性(マギー)が、カヌーに乗って北東の水路の近くにあるフェリット島に椰子の実から採れるヤシ油の原料のコプラを採りに出かけました。そして四人はたくさんのコプラを積み、夕方四時過ぎにフェリット島から再びカヌーに乗りデュブロン島を目指しました。
しかし、三十分くらいカヌーを漕ぎ出した辺りで天候が一変し嵐になりました。小さなカヌーにコプラをたくさん積んでいる上に更に四人乗っていますから、大波が来るごとに海水がカヌーの中に容赦なく入り、とうとうカヌーは海面まで沈んでしまいました。木ででいているため、海底には沈んでいきませんでした。それから四人はカヌーの端に捕まりながらデュブロン島を目指して必死に泳ぎました。
しかし、泳いでも泳いでもなかなか上手く進みませんでした。デュブロン島とフェリック島の間は環礁内でも最も深い場所として知られていて、一旦流され出したら、北東の水路から外洋に流される可能性もあり、また水面で泳いでいるためサメに襲われる危険もありました。泳ぎだしてから既に一時間以上が過ぎ、辺りは暗くなりかけていましたが、年配の男が「諦めるな!島はもうすぐだ!!」とみんなを励ましました。しかし、既に夕陽は西の水平線に沈もうとしており、数分も立たないうちに海面は薄暗くなってしまいました。泳ぎ疲れていた四人は絶望的な気分になりました。とうとう辺りは闇になり、何処を見ても低い雲がかかっていて、目指すデュブロン島も見えませんでした。行き場を失った四人の不安は頂点に達しようとしていました。
その時、遠くから何かの音が聞こえました。それはたくさんのイルカたちの鳴き声でした。その声はどんどん四人に近づいてきました。気がつくと、疲れ果てて絶望の中にいた四人の周りを十数頭のイルカ達が完全に取り囲んでいました。そして、先頭のイルカが周りのイルカ達とまるで話し合うかのように、お互い「ジー!ジー!」と鳴きあいながらデュブロン島のすぐ近くまで導いてくれました。四人が島に辿り着ける地点でイルカ達は去って行ったそうです。
空を見上げると雲は晴れ、満天に星が輝き出し、その星明りの下にデュブロン島が黒くシルエットでくっきりと映し出されていました。

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