写真館に木村氏・堀川氏が登場です!

BLUE MARLIN

 私がブルーマーリンと聞いて最初に思い出せるのは、あの文豪のアーネスト・ヘミングウェイだろうか。以前、キューバの首都ハバナのカサブランカドックにて釣り上げた大物マーリンを前にご満悦のヘミングウェイの写真を見たことがある。
この時のブルーマーリンは、重さ468ポンド(約212キロ)で当時のキューバの新記録だった。その夜はこの記録の嬉しさからモヒートやダイキリなどをガブガブ飲みながら大宴会をやらかしたのではないかと想像させられる。
そして、その釣果をもとに1952年に大物マーリンとの死闘を繰り広げるキューバのサンチャゴという老漁師を通して、過酷な自然に立ち向かう人間の孤独と尊厳を描いた作品「THEOLDMANANDTHESEA」(老人と海)が書かれたのではないかと思われる。ヘミングウェイ自身、果敢に海に挑んで行く経験があったからこそ、3日間に渡るブルーマーリンとの死闘の様子を細部に至るまで表現できたのはないか。そんな気がしてくる。ちなみに、この作品は2年後の1954年に大きな評価を受け、ノーベル賞を受賞している。私が。1997年にこのトラック環礁のジープ島に移り住んでから、ブルーマーリンは3度ほど目にしたことがある。1度目は、トラック環礁の隣のキミシマ環礁のエッジ・オブ・クオ―プ(EDGEOFKUOP)をジュエリードロップ側に流しながら潜っていた時である。海洋側から壁に入り、その浅瀬に生息する数万匹のハナダイの群れを下からシルエットで見上げている時である。突然、水面すれすれにメタリックブルーに光る大きな細長い物体が猛スピードで通り過ぎて行ったのである。長く尖った口先がたいへん印象的であり、実に悠然として圧倒された。
2度目は晴天のべた凪の日にジープ島のビーチでのんびり椅子に座りコーヒーを飲んでいた時である。島のハウスリーフの沖合で思いっきりジャンプしたと思ったら、そのまま冬島方向に3度飛び続けたのである。黒っぽい背びれが大きく広がり、体を立てて走り去る光景は実に勇壮として見事だった。
そして3度目が2012年の元旦である。大晦日からホテルで毎年恒例の宴会が8時から始まり、そのまま夜中の2時まで続いた。飲んだ酒がシャンパン、ワイン、日本酒、ビール、ウイスキー......。一昨年は夜中の3時まで飲んで踊って、ヨレヨレになるまでどんちゃん騒ぎをやらかして前後不覚に陥り、そのままホテルのセキュリティーに担がれて部屋まで連れて行かれた。
しかし今年は二日酔いにもならずにすっきりと目が覚めて、朝ジープ島に向かった。島に到着して新年の挨拶を交わし、その後元旦にふさわしい晴天の真っ青な海を沈船の富士川丸を目指して船を走らせた。それから10分くらい経過しただろうか、遠くに富士川丸のマストが見えたと思った瞬間、先頭の私のボートの先にイルカの群れが付いた!私はすぐにボートを減速させドルフィンスイムを行う事にした。
私が先に海に入ると、少しボートから離れた地点右側に6頭のイルカの群れを確認できた。しかし水深7〜8m地点でどういうわけか6頭のイルカ達は、丸く固まって私の方をじっと見つめていた。何だかいつもと様子が違うぞと思いつつ今度は左方向を見た。何か変わったものがいると思いながら、ゆっくりとフィンキックをして近づいていくと・・・なんと!水深2m地点に左に1頭のイルカ、右に1匹のブルーマーリンとが睨みあっていたのである。イルカは2.5mから3m近くの大きさだがブルーマーリンはそれより口先が尖っているぶん大きく4mほどある。
私は驚きのあまりその光景に釘付けになった。イルカとブルーマーリンとの口先との差は、わずか50cmくらい。するとイルカが先に動き出し、口先を左右に振りながらブルーマーリンに近づこうとする。しかし、ブルーマーリンの尖った口先も同じように左右に振り、イルカを一歩も寄せ付けない。今に闘いが始まるのではないかと思いつつ眺めていたら、先にイルカの方が折れて6頭の仲間の所に戻って行った。ブルーマーリンはゆっくりと向きを変え少し動き始めた。その瞬間私は一抹の不安を覚えた。なんとそのブルーマーリンの尖った口先が私の方に向けられたからである。あんなので一突きされたら、ひとたまりもない!
「ジープ島吉田氏、1997年にジープ島を開島。しかし、2011年に島に流れ着いたマッコウクジラを3日間燃やし続けてチェーンソーで真っ二つに切り、そして疲れ果て......。遂に2012年元旦、おしくも55歳の若さでブルーマーリンに突かれてトラック環礁内で死す!」なんてことになりかねない。
しかし、しばらくするとブルーマーリンは、更に向きを右に変え、私の脇をゆっくりと泳ぎ去って行った。その後2艘目のボートが追いつき、みんなでドルフィンスイムを行った。その日のイルカ達はかなりの至近距離で遊んでくれた私は海の賢者(イルカ)と海の勇者(ブルーマーリン)とに同時に出会ったような感覚を覚えた。
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