マイアミから五十マイルの距離を十七人乗りのシープレーンで二十分程飛んだところにバハマ諸島がある。そこにビミニ島という人口わずか千五百人の小さな島があり、真っ青な大西洋が見渡せる湾に面したビーチの一角に「END OF THE WORLD(世界の果て)」と書かれた看板が垂れ下がったなかなかしゃれた名前のバーがある。バーの中は真っ白な砂が敷き詰められ、壁や天井の至る所に下着が貼られている。砂が敷かれいるバーということで「SAND BAR」とか、下着が貼られているということで「UNDERWEAR BAR」などの別名でも呼ばれている。初めは船乗りが、次に店に来るであろう知り合いの船乗りへのメッセージに名刺を貼ったり、壁に名前を書いたりしていたのだが、ある時、酔っ払った粋のいい女性がその店を気に入り、記念にと言って履いていた下着をおもむろに脱ぎ捨てて貼ったのが、ここで下着が貼られるようになった事の起こりである。それ以降いろいろな下着が壁にも天井にも貼られるようになったという。が、花柄などのかわいらしいパンティーが貼られているシーンを想像したくなるが、そうゆう物にめったにお目にかかれないようである。
彼女は二十歳で大手証券会社を辞め、失踪した。
アメリカのインディアナ、サンディエゴ、ハワイを放浪して、そのまま日本には帰らず更に南下して、バハマ連邦のビミニに住んだという。毎日朝から午後の三時までベビーシッターをして、四時からイルカに会いに出かけるという、そんな生活していた。
夜になると「END OF THE WORLD」や、島に一軒しかない、しかもわずか五部屋しかないホテル、「COMPLETE ANGLER(コンプリート・アングラー 熟練なる釣り師)に出かけて行って、そこのバーで飲んだという。
遠い昔、作家のアーネスト・ヘミングウェイがブルーマーリンを釣り上げ、一室に垂れ込めて、小説「海流の中の島々」を書いた所として知られている土地である。
…失踪後のある日、友人が彼女のアパートを訪ねると、部屋のドアにこう書かれた張り紙があった。
「私は都会に疲れた!イルカに会いにでかける‼︎」と…。