トラック諸島での正月というのは、いまだにピンと来ない。日本では、年の瀬が近づいてくれば「良いお年を」などと言葉を交わし合ったり、TVなどが「紅白歌合戦」などの年末の番組を満載させ、いよいよ年が明けるんだなーという気にさせられるんだが、この南の島ではTVもなければラジオもない、まして新聞などもないわけでどうも昨年と今年とのけじめがつきにくいように感ずる。
唯、1つだけ、この土地の新年を迎える習慣として「缶たたき」というのがある。十二月三十一日の深夜十二時を過ぎて元旦になると、子供も大人も缶を棒でたたきながらあちこち歩き回るのである。
二〇〇八年十二月三十一日にジープ島に出かけみんなでドルフィンスイムを行い、この年最後の日をイルカで終わらせることが出来た事を祝って飲んでいた。夜の8時からビールに始まり、バランタインの十七年を1本を開け、その後赤ワインを元旦の夜中の3時まで飲み続けながら歌い踊った。そして、そのままヨレヨレになってセキュリティーに部屋に担ぎ込まれた。すぐにベッドに潜りこみ気持ちよくすやすやと寝ている所「缶たたき」が私の部屋までやって来た。声を出さずに唯ひたすら叩くのである。
何処からともなくやって来て10回くらい私の部屋の前で叩いて、また何処かに去って行った。大人のか子供なのか、或いは男なのか女なのか、全く見当が付かない。私は半睡状態でウトウトしながら、「一体、この行動は何を意味しているんだろうか?」とそんなことを考えながら再び寝た。
この「缶たたき」は、かなり昔から行われていたらしい。昔は島に缶がなかったからコプラ(タカ)という椰子の実の枯れて硬くなったものを使っていたようである。丁度、砲丸投げサイズくらいの椰子で、それを2個持ちながらカン!カン!叩いて歩き回ったようである。この「缶たたき」は、トラック語で、APUPTIN(オプッティン)と言い、APUPは「叩く」の意味でTINが「缶」という意味だそうである。昔、缶がない頃は、椰子の硬いのをタカ(TAKA)というので、APUPTAKA(オプッタカ)という事になるのだろうか?
私なりに考えると、この「缶たたき」には、2つくらいの意味がありそうだと推察できる。一つは、また1年を無事に過ごして来られた安堵感と新たな年を迎えて希望を感じている期待感とが入り混じって「おめでたい!」という事で缶を叩きながら「共に祝おう!」というような意味だと思われる。
もう一つは、「悪魔除け」のまじないのような気がする。この土地には古くから悪霊信仰のようなものがある。例えば未開の島に初めて移り住む場合は、島の片側の海岸線だけに家を集中させるようになっている。つまり島の反対側は悪霊たちに明け渡すというような意味らしい。
また、私がジープ島に住み始めた頃、よくキミシマ環礁の調査に出かけたものだが、必ず出かける2日ほど前になるとシンノスケが手招きして、私の耳元で「キミシマに行く前の夜は絶対に女とベッドを共にしてはいけないよ。キミシマのお化けが嫉妬して帰って来てから何日も熱に魘されるからね」と念を押されたものである。
日本の場合は、大晦日に行われる「除夜の鐘」というのがある。これは、人間の四苦八苦を取り払い、108あると言われている人間の煩悩を取り除く為に行われるわけだが、トラックの「缶たたき」「椰子のコプラたたき」「除夜の鐘たたき」。まぁ!鐘は叩くとは言わず撞くわけだが、棒を使って「カン!カン!」やるという点においては結局同じような事なのかもしれない。
既に20年もこの土地に住んでしまうと、この「缶たたき」が来ると、正月が来たと思えるのだから実に不思議な感覚を覚えてしまう。
唯、1つだけ、この土地の新年を迎える習慣として「缶たたき」というのがある。十二月三十一日の深夜十二時を過ぎて元旦になると、子供も大人も缶を棒でたたきながらあちこち歩き回るのである。
二〇〇八年十二月三十一日にジープ島に出かけみんなでドルフィンスイムを行い、この年最後の日をイルカで終わらせることが出来た事を祝って飲んでいた。夜の8時からビールに始まり、バランタインの十七年を1本を開け、その後赤ワインを元旦の夜中の3時まで飲み続けながら歌い踊った。そして、そのままヨレヨレになってセキュリティーに部屋に担ぎ込まれた。すぐにベッドに潜りこみ気持ちよくすやすやと寝ている所「缶たたき」が私の部屋までやって来た。声を出さずに唯ひたすら叩くのである。
何処からともなくやって来て10回くらい私の部屋の前で叩いて、また何処かに去って行った。大人のか子供なのか、或いは男なのか女なのか、全く見当が付かない。私は半睡状態でウトウトしながら、「一体、この行動は何を意味しているんだろうか?」とそんなことを考えながら再び寝た。
この「缶たたき」は、かなり昔から行われていたらしい。昔は島に缶がなかったからコプラ(タカ)という椰子の実の枯れて硬くなったものを使っていたようである。丁度、砲丸投げサイズくらいの椰子で、それを2個持ちながらカン!カン!叩いて歩き回ったようである。この「缶たたき」は、トラック語で、APUPTIN(オプッティン)と言い、APUPは「叩く」の意味でTINが「缶」という意味だそうである。昔、缶がない頃は、椰子の硬いのをタカ(TAKA)というので、APUPTAKA(オプッタカ)という事になるのだろうか?
私なりに考えると、この「缶たたき」には、2つくらいの意味がありそうだと推察できる。一つは、また1年を無事に過ごして来られた安堵感と新たな年を迎えて希望を感じている期待感とが入り混じって「おめでたい!」という事で缶を叩きながら「共に祝おう!」というような意味だと思われる。
もう一つは、「悪魔除け」のまじないのような気がする。この土地には古くから悪霊信仰のようなものがある。例えば未開の島に初めて移り住む場合は、島の片側の海岸線だけに家を集中させるようになっている。つまり島の反対側は悪霊たちに明け渡すというような意味らしい。
また、私がジープ島に住み始めた頃、よくキミシマ環礁の調査に出かけたものだが、必ず出かける2日ほど前になるとシンノスケが手招きして、私の耳元で「キミシマに行く前の夜は絶対に女とベッドを共にしてはいけないよ。キミシマのお化けが嫉妬して帰って来てから何日も熱に魘されるからね」と念を押されたものである。
日本の場合は、大晦日に行われる「除夜の鐘」というのがある。これは、人間の四苦八苦を取り払い、108あると言われている人間の煩悩を取り除く為に行われるわけだが、トラックの「缶たたき」「椰子のコプラたたき」「除夜の鐘たたき」。まぁ!鐘は叩くとは言わず撞くわけだが、棒を使って「カン!カン!」やるという点においては結局同じような事なのかもしれない。
既に20年もこの土地に住んでしまうと、この「缶たたき」が来ると、正月が来たと思えるのだから実に不思議な感覚を覚えてしまう。